原発191基分の蓄電所計画!?過熱する蓄電池投資から考える「次の再エネバブル」
再生可能エネルギーが増えていく中で、最近注目されているのが「系統用蓄電池」です。
簡単に言えば、
電気が余ったときにためて、必要なときに放電する巨大なバッテリー
です。
太陽光発電は昼間には大量に発電できますが、夜になると発電できません。
そのため再生可能エネルギーを増やしていくには、電気をためておく設備が非常に重要になります。
ところが現在、この蓄電所への投資がかなり過熱しているようです。
日本経済新聞の記事によると、電力会社の送電網への接続を検討している蓄電所の容量は、2026年3月末時点で191GW(ギガワット)。
原子力発電所の出力に換算すると、なんと原発191基分に相当する規模だといいます。
今回は、
「なぜこれほど蓄電池への投資が増えているのか?」
そして、
「僕たちの電気料金や投資にはどんな影響があるのか?」
について考えてみます。
蓄電所への投資が一気に増えている
現在、蓄電所ビジネスには電力会社だけでなく、
- 金融
- 不動産
- 商社
- ゼネコン
など、さまざまな業種が参入しています。
実際、完成前の蓄電所が数億円単位で売買されるケースまで出てきています。
背景にあるのが、政府による再生可能エネルギー政策です。
政府は2021年度から蓄電所開発への補助金を出し始めました。
さらに2026年度の補助金規模は350億円と、前年度の2倍を超える規模になっています。
政府としても、
「再エネを増やすなら蓄電池も増やさなければならない」
という事情があるわけです。
なぜ蓄電池は儲かるのか?
蓄電池ビジネスが注目される最大の理由は、
投資回収期間が比較的短かったこと
です。
蓄電所は「需給調整市場」という電力市場に参加できます。
電気が不足したときに放電したり、逆に電気が余ったときに充電したりすることで、電力網の需給バランスを調整します。
その調整能力に対して、蓄電所事業者は収入を得ることができます。
以前は売値の上限が、
1kW・30分あたり19.5円
に設定されていました。
記事によれば、この上限価格で販売を続けられれば、一般的な約6億円規模の蓄電所でも数年で投資を回収できる可能性がありました。
数億円規模のインフラ投資を数年で回収できる。
これなら投資家が殺到するのも分かります。
原発191基分の計画が「接続待ち」
しかし、ここで大きな問題が起きています。
蓄電池を作ったからといって、すぐに使えるわけではありません。
電力会社の送電網につなぐ必要があります。
現在、送電網への接続について問い合わせが出ている蓄電所の容量は、
191GW
に達しています。
これは現在運転している蓄電所の約227倍。
原発1基を約1GWとして計算すると、
原発191基分
という、とんでもない規模です。
当然、すべてをすぐ送電網につなぐことはできません。
電線や変電所などの増強も必要になるため、一部では接続まで約5年待ちになるケースまで出ているそうです。
つまり、
「蓄電池を作りたい会社」
に対して、
「電力網の整備が追いついていない」
状態です。
「蓄電池を作る」より「接続枠を売る」ビジネスも
さらに興味深いのが、蓄電所そのものではなく、
送電網への接続を早く申請した土地や事業計画
にも価値が付き始めていることです。
例えば、
早い段階で土地を確保
↓
送電網への接続申請をする
↓
接続できる権利を確保する
↓
事業ごと他社へ売却する
というビジネスです。
こうなってくると、
「電気を安定供給するための蓄電所」
という本来の目的から、
「値上がりしそうだから先に押さえて売る」
という投機的な動きも出てきます。
個人的には、この部分が今回の記事で一番気になりました。
儲けの一部は僕たちの電気料金から出ている
さらに忘れてはいけないのが、
蓄電池事業者への支払いを最終的に誰が負担しているのか
ということです。
送配電会社が需給調整市場を通じて蓄電池事業者に支払った費用は、最終的には家庭や企業の電気料金にも反映されます。
つまり、
蓄電池事業者が利益を得る
↓
送配電会社が費用を負担
↓
電気料金へ反映
↓
家庭や企業が負担
という構造があります。
もちろん電力の安定供給に必要な費用なら問題ありません。
しかし投機目的の事業者まで大量に参入し、高い収益を得るようになれば、
「なぜその利益を国民の電気料金で負担するの?」
という議論が出てくる可能性があります。
国も価格を引き下げ始めた
そこで政府も制度の見直しを始めています。
需給調整市場の上限価格は以前、
19.5円
でした。
資源エネルギー庁は一時、
7.2円
まで引き下げる案を提示しました。
しかし事業者側から、
「それでは借入金を返済できない」
「事業計画が成り立たない」
と強い反発が出ました。
最終的には、
3月から 15円
9月から 10円
へ段階的に引き下げることになりました。
国としても難しいところでしょう。
価格を高くすれば、
「蓄電池投資が増える」
一方で、
「国民負担も増える」。
逆に価格を下げすぎれば、
「蓄電池に投資する企業が減る」。
再エネを増やしたい政府にとって、かなり難しいバランス調整です。
太陽光発電と同じことが起きないか?
今回の記事でも指摘されていましたが、現在の蓄電池市場は、
2012年前後の太陽光発電ブームに似ている
といいます。
太陽光発電もFIT(固定価格買い取り制度)によって一気に普及しました。
再生可能エネルギーが増えたこと自体は大きなメリットです。
しかし一方では、
- 森林の無許可伐採
- 景観問題
- 土砂災害への懸念
- 住民とのトラブル
なども発生しました。
つまり、
儲かる制度を作る ↓ 企業が殺到する ↓ 開発競争が起きる ↓ 問題のある事業者まで参入する
という流れです。
今回の蓄電池も、似た道を歩む可能性があります。
蓄電池の場合には、設備から発生する騒音などをめぐって近隣住民とのトラブルが増えることも懸念されています。
投資家として考えたいポイント
僕が今回の記事を読んで感じたのは、
「国策だから儲かる」という投資テーマほど、制度変更には注意しなければならない
ということです。
蓄電池市場が急成長しているのは事実です。
再エネが増えていけば、蓄電池の重要性も今後さらに高まる可能性があります。
一方で、
「利益が出すぎている」
と政府が判断すれば、今回のように制度変更が入ります。
これは株式投資でも同じです。
「国策テーマだから安心」
ではなく、
その企業の利益が何によって生まれているのか
を見ることが大切だと思います。
技術力なのか。
市場成長なのか。
補助金なのか。
制度で決められた価格なのか。
同じ利益でも、中身はまったく違います。
まとめ
再生可能エネルギーを増やしていくうえで、蓄電池は欠かせない設備です。
そのため、
蓄電池市場そのものは今後も成長していく可能性が高い
と思います。
しかし現在は、
- 原発191基分に相当する接続計画
- 現在稼働中の約227倍もの申請
- 接続まで5年前後待つケース
- 数億円規模での蓄電所売買
- 接続枠を含めた転売ビジネス
- 政府による巨額の補助金
- 電気料金へのコスト転嫁
などを見ると、かなり投資熱が高まっていることも分かります。
太陽光発電も日本の再エネ普及に大きく貢献しました。
しかし制度設計によって、一部では乱開発や投機も起きました。
蓄電池でも同じ失敗を繰り返してはいけません。
再エネを増やす。
蓄電池も増やす。
事業者にも適正な利益を出してもらう。
そして国民の電気料金負担はできるだけ抑える。
この4つをどう両立するのか。
今後の日本のエネルギー政策を見るうえで、「蓄電池市場」もかなり注目しておきたいテーマだと思います。