保育士の給与格差を是正へ――東京一極集中を防ぎ、地域の保育を守れるか
保育士の給与をめぐり、本格的な見直しが始まろうとしています。
こども家庭庁は、保育施設の運営費の基礎となる「公定価格」について、地域による差を縮小する方針を示しました。年末までに制度の詳細を固め、2027年4月からの適用を目指します。
今回の見直しは、単純に全国の保育士の給与を一律で引き上げるものではありません。
大都市と周辺自治体の間にある給与格差を小さくし、保育士が待遇の良い地域へ偏るのを防ぐことが主な目的です。
川を渡るだけで給与の原資に大きな差
保育施設の収入の中心となるのが、国が定める公定価格です。
保護者が支払う保育料と、国や自治体が負担する公費を合わせたもので、施設の運営費や保育士の給与は基本的にこの中から支払われます。
公定価格の人件費部分には、国家公務員の地域手当に準じた加算があります。しかし、この加算率には大きな地域差があります。
新たな区分をそのまま適用した場合、東京23区は20%の上乗せとなる一方、荒川を挟んで隣接する埼玉県川口市や戸田市などは4%にとどまります。千葉県市川市や浦安市なども8%です。
生活圏や通勤圏はほぼ一体なのに、自治体の境界を越えるだけで給与の原資に大きな差が生じることになります。
これでは保育士が、少しでも待遇の良い東京23区へ流れるのは自然なことです。
東京都と埼玉県では月収に約4万円の差
2025年の賃金構造基本統計調査によると、保育士の平均月収は次のようになっています。
- 東京都:31万0,000円
- 千葉県:30万4,000円
- 埼玉県:27万2,000円
東京都と埼玉県では、平均月収に3万8,000円の差があります。年間にすると単純計算で約45万円です。
もちろん、自治体によっては独自の補助金を出し、保育士の待遇改善に取り組んでいます。しかし、財政力の弱い自治体が同じような支援を続けるのは簡単ではありません。
保育士を確保できるかどうかが、自治体の財政力に左右される状態になっているともいえます。
保育士不足は子育て世代にも直結する
今回の問題は、保育士だけのものではありません。
住宅価格や家賃の高騰によって、子育て世代が東京23区から埼玉県南部や千葉県西部などへ移り住む動きが広がっています。
子育て世帯が増えても、保育士の確保が追いつかなければ、保育園の受け入れ人数を増やすことはできません。その結果、待機児童が再び増えたり、希望する保育園に入れなかったりする可能性があります。
保育園に入れなければ、育休からの復職が遅れ、世帯収入にも影響します。特に共働き家庭にとって、保育サービスは生活を支える重要なインフラです。
保育士の給与格差を是正することは、子育て支援だけでなく、地域の雇用や経済を守る政策でもあると思います。
「給与アップ」だけで終わらせてはいけない
今回の見直しは、大都市周辺の自治体で働く保育士の待遇改善につながる可能性があります。
一方で、加算率の変更によって施設の収入が減る地域が出れば、園の経営を圧迫する恐れもあります。公定価格に依存する保育施設は、一般企業のように自由に売り上げを増やせるわけではありません。
そのため、制度変更では単純に地域差を小さくするだけでなく、現在の給与水準を下げない仕組みや、施設の経営が不安定にならない経過措置も必要です。
また、給与だけでなく、保育士1人あたりの負担軽減、休暇の取りやすさ、ICTによる事務作業の削減など、働き続けられる環境づくりも欠かせません。
まとめ
保育士の給与は長年、「仕事内容や責任の重さに対して十分ではない」と指摘されてきました。
今回、地域間の給与格差にまで踏み込んだことは、大きな前進だと思います。
ただし、今回の方針は全国の保育士の給与を一律に引き上げる政策ではありません。東京23区などへの人材集中を防ぐため、生活圏がつながっている周辺自治体の加算を厚くする仕組みです。
保育士が住んでいる地域にかかわらず、安心して働き続けられること。そして、子育て世代が必要な保育サービスを受けられること。この両方を実現する制度にしてほしいと思います。
保育士の待遇改善は「保育業界だけの問題」ではありません。共働きが当たり前になった今、社会全体の働き方や少子化対策にも直結する重要なテーマです。